日本秘湯を守る会

山のいで湯守って
ずいぶん山の中で不便な思いもしました。冬は交通が途絶えたり食糧の確保すら難しい時代が長く続きました。いっそのこと山をおりてどこかで観光旅館でもと考えたこともしばしばでした。
 しかし、長年にわたってお訪ね下さるご常連のお客様や、先祖が守ってきた温泉のことを思うと去ることも新築することにも頭をかかえました。”残してくれ”古くさい建て直せ”そんなお客さんの声を自問自答しながら生きて参りました。
 私どもの宿では、草一本、石ころひとつにも皆さんとの血が通っているように思われてなりません。古いものや自然環境をのこそうと、今日まで云うに云えない苦労も致しました。
 おかげさまで、昨今はそれだから来たんだようとおっしゃるお客さまが多くなり、古さを守るという生甲斐すら覚えるようになりました。有難いことだと思っています。山合いの古いボロ屋ですが、昔ながらの木の湯にひたり、”宿の夫婦が摘んだ山菜の味でよい、炉ばたでおやじ語ろうよ”と、おっしゃる皆さんのためにいつ迄も生き続けたいと念願しております。
 雪どけの道をお帰りになったあのお客さん、無事に国道まで出られたのかしら・・・、そんなことを気にしながら今宵もまた訪ねて下さった都会の方々に山の暮らしのおしゃべりを続けて参ります。


日本秘湯を守る会々員旅館一同


秘湯をさがして 元朝日旅行会会長 故・岩木一二三

 田舎を捨てた人間だけに人一倍田舎を恋しがる東京人の一人である。幼い頃に、いろりのそばで母のぞうり作りを見、縄をなう父に育てられたからかも知れない。しかし、そのふるさとの家も跡かたもなく近代化され、牛小屋はコンクリート建ての車庫に変わってしまった。おいやめいが各々の車を持って走り回っているほどの近代化した日本の社会である。いったい、老いゆく自分達がどこに安住の地を求め、どこに心の支えをおいたらいいのだろうかと迷いながらさまよい歩いて三十年の歳月が流れていった。
 旅行会社に籍を置くために、つい旅行に出たり、旅と結びつけてしまうが、もうホテルもきらきらした旅館もたくさんだ、炭焼き小屋にでも泊めてもらって、キコリのおじさる。公害のない蓮華温泉の星空はきれいだった。人間と宇宙がこれ以上近づいてはならない眼界のようにさえ思われたのである。細々と山小屋を守る老夫婦の姿には頭が下がった。人間としてのせいいっぱいのがんばりと生き甲斐が山の宿に光っていた。
 ひとびとの旅は永遠に続いてゆく。それぞれ目的の異なる旅かも知れないが…。いづれの日か山の自然と出で湯は、ほのぼのとした人間らしさをよみがえらせてくれることだろう。秘湯で歴史を守ろうとじっとたえてきた人々の心の尊さがわかって頂ける時代が帰って来たのである。秘湯を守る皆さんや、秘湯を訪ねられるお客さん方に、私たちが近代社会の中で失いかけていたものは…という問いを投げかけてみたい。
これからの日本に大切なことは何か。それは、人間が共に考えながら、助け合いながら、築き上げ、守りぬく、ぬくもりのある人生の旅ではありますまいか。

「日本の秘湯」を片手に、秘湯のはしごと洒落込むか!

日本秘湯を守る会では、写真のようなスタンプ帳を発行しています。
会員の宿に一泊するごとに記念スタンプを押印します。
三ヶ年の間に10個スタンプが集まると、一泊無料ご招待の特典があります。ぜひ挑戦してみて下さい。

会員の宿を紹介しているガイドブック「日本の秘湯」の冊子も、各会員宿または朝日旅行会で販売しています。(750円)